名詩『山のあなたの空遠く』の謎|なぜ涙を流したのか?幸福の正体を解く

名詩『山のあなたの空遠く』の謎|なぜ涙を流したのか?幸福の正体を解く

名詩『山のあなたの空遠く』の謎|なぜ涙を流したのか?幸福の正体を解くについて分かりやすく解説いたします。最新の情報をお届けします。

現代の読者がこの詩に触れた際、インターネット上の知恵袋やSNSで頻繁に見受けられる典型的な誤解が存在します。それが、山のあなたのあなたとは意味に関する混同です。

日常会話で「あなた」と言えば二人称の敬称(You)を指すため、「山の向こうにいる大好きな『あなた』の空遠くに……という恋愛詩だと思っていた」と勘違いしているケースが後を絶ちません。しかし、ここでの「あなた」は漢字で書けば「彼方」であり、「彼方(かなた)」「向こう側」「遥か遠い地平」を意味する古語・雅語としての代名詞です。

さらに、前述した「われひとと」についても、「私とあの人(二人)で手を携えて」というロマンチックな二人旅の描写だと誤読される傾向があります。しかし、上田敏が用いた「我人(われひと)」は、仏教用語や古典日本語における「自他」「自分と世間の人々」を指す包括概念です。つまり「私を含む人々全体」であり、原詩の「im Zuge der andern」の通り、「付和雷同した大衆の群れ」を的確に表現した言葉遣いなのです。

この二重の誤解を正して初めて、この詩が「甘酸っぱい青春の恋の詩」などではなく、「他人の言葉に踊らされ、実体のない幸福という幻影を追いかけてすり減っていく人間存在の皮肉」を突いた、冷徹な社会観察詩であることが浮き彫りになります。

阿部 裕樹
著者

阿部 裕樹

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。