生物学における変態(metamorphosis)とは、動物の個体発生において幼生から成体へと移行する際、形態、解剖学的構造、生理機能、生態が不可逆的に大きく変化する現象を指します。昆虫類や両生類、甲殻類などに広く見られる適応戦略です。
昆虫の変態は大きく「完全変態」と「不完全変態」に分類されます。完全変態を行うチョウ、甲虫、ハチ、ハエなどは、「卵→幼虫→蛹(さなぎ)→成虫」というステージをたどります。蛹の内部では、幼虫の組織の大部分がアポトーシス(プログラム細胞死)によって一度ドロドロに分解され、「成虫原基」と呼ばれる細胞群から翅や複眼などの成虫組織がゼロベースで再構築されます。一方、バッタやセミ、ゴキブリなどの不完全変態昆虫は、蛹を作らず脱皮を繰り返しながら徐々に成虫へと成長します。
両生類のカエルが見せる変態過程も劇的です。水中生活を送るオタマジャクシはエラ呼吸をし、尾を動かして泳ぎ、長い消化管で藻類などを食べます。しかし変態期に入ると、甲状腺ホルモン(サイロキシン)の急増をトリガーとして、肺の形成、四肢の発生、エラと尾の自己融解吸収、肉食に適した短い胃腸への再構築が一挙に進行し、陸上生活者へと生まれ変わります。
生物がこれほど多大なエネルギーを消費してまで変態を行う最大の理由は、「幼虫と成虫の間でニッチ(生態的地位)を完全に分離し、食料や生息域の奪い合い(種内競争)を回避すること」にあります。幼虫は摂食と成長に特化し、成虫は移動と生殖に特化するという機能分化こそが、地球上で昆虫類が約100万種以上という圧倒的な繁栄を築いた生物学的勝因です。
また、物理学や材料工学の分野でも「相変態(Phase Transformation)」という用語が頻繁に使われます。これは温度や圧力の変化によって、物質の結晶構造や状態(固体・液体・気体、あるいは金属組織のオーステナイトからマルテンサイトへの変化など)が別の相へ移り変わる現象を指し、工業用鋼材の熱処理技術などに不可欠な概念となっています。