現地を訪れた者を真っ先に圧倒するのが、チェーンソーという重機具だけを使って仕上げられたとは信じがたい、木彫り彫刻の造形力です。一般的な彫刻刀による木彫が「削り重ねる引き算の美」であるとすれば、チェーンソーアートはエンジンの轟音とともに力強い切断と微細なバーコントロールを同時に行う「瞬間の動的芸術」と言えます。
展示の中心となるのは、大人の背丈を遥かに超える巨大なクマの像です。前足を振り上げて威嚇する獰猛な姿から、子グマを優しく見守る母グマの穏やかな眼差しまで、丸太の形状や木目の流れを完璧に計算に入れて彫り込まれています。樹皮の荒々しさをそのまま毛並みの質感に転化させ、チェーンソーの刃先をミリ単位で走らせて彫られた表情は、見る角度や木漏れ日の差し込み方によって千変万化の陰影を生み出します。
さらに見逃せないのが、作品が風雨に晒されながら森と調和していく経年変化の美学です。完成直後の明るい木肌から、年輪を重ねるにつれて深い飴色や苔をまとった風合いへと変化していく様は、自然の循環そのものを表現しています。制作現場である工房の空気がそのまま残る展示空間では、木の放つフィトンチッドの香気とガソリンの匂いがかすかに混ざり合い、芸術が産声を上げる生の熱量を肌で感じ取ることができます。