現在のアドホックビル周辺を歩くと、ネット上の惜別コメントと現地の空気感との間に広がる「温度差」に直面する。SNSや掲示板、Q&Aサイトに書き込まれた生の声を検証すると、世代によってビルに対する認識が完全に二極化していることがわかる。
「学生時代、新宿で遊ぶときは『アドホック前』が合言葉だった。サンリオで友達の誕生日プレゼントを買い、上の紀伊國屋で漫画の新刊を立ち読みしたのが青春の1ページ」(40代女性・SNS投稿より)
「アドホックの紀伊國屋はマニアックな専門書や画集の品揃えが神がかっていた。本店がリニューアルしても、あの独特のアングラ感と熱気はアドホックにしか出せない空気だった」(50代男性・ブログ手記より)
こうした昭和・平成世代の濃厚なノスタルジーに対し、20代を中心とする現在の若年層の声は極めてドライだ。
「靖国通りのドン・キホーテの近くにある古いビルという認識。中に入ったことはほとんどない」(20代男性・街頭の声)
「地下通路を歩いていて『アドホックビル連絡口』という看板を見るけれど、何のビルなのか意識したことがない」(20代女性・知恵袋投稿より)
実際に昼下がりのアドホックビルを観察すると、モア街に面した1階周辺には多くの通行人が行き交うものの、建物自体に吸い込まれていく人の流れは全盛期に比べて明らかに細い。外壁のタイルや階段の意匠には70年代モダン建築の風格が色濃く残るが、館内のテナント案内板には空白のスペースも目立ち、どこか時間が止まったかのような静寂が漂っている。街が急速にアップデートされる中で、このビルだけが巨大な過渡期のエアポケットとして存在している印象を強く受ける。