ネット上で「ステビアは体に悪い」「不妊の原因になる」「発がん性がある」といったネガティブな言説を目にし、不安を抱く利用者は少なくありません。こうした噂はどこから生まれ、現在の医学・食品科学ではどのように評価されているのでしょうか。
「不妊になる」という噂の真相とデマの経緯
ステビアの危険性として最も広く拡散されたのが「生殖機能への悪影響(不妊化)」に関する噂です。この疑惑の震源地は、1968年にブラジルの研究者(プラナス博士ら)が発表した単一の動物実験論文にあります。 当時の論文では「ステビアの濃縮抽出液を大量に投与した雌ラットで受胎率が低下した」と報告されました。この発表がセンセーショナルに報じられた結果、「先住民族が避妊薬として使っていた」という根拠のない俗説と結びつき、世界中に不安が広がりました。 しかし、その後の検証で実験プロトコルの重大な欠陥が次々と判明しました。
- 過剰投与の問題:ラットに投与されたステビアの量は、人間が日常的に摂取するレベルを数千倍以上も上回る非現実的な極量であったこと。
- 再現性の完全な欠如:1980年代から1990年代にかけて、英国、日本、タイなどの独立した研究機関が大規模な追試を実施した結果、受胎率、胎児の発育、生殖器の機能に対する毒性や悪影響は一切認められなかったこと。
現在では、1968年の実験結果は実験環境や濃縮物の不純物に起因するアーティファクト(実験上の誤差)であり、ステビアに避妊作用や不妊を引き起こす毒性はないことが科学的に完全決着しています。
「発がん性・遺伝毒性」疑惑の解明
もうひとつの懸念である「発がん性」についても、1980年代半ばに行われた一部の試験管内試験(in vitro)で、ステビオールの代謝物が細菌のDNAに変異を起こす(変異原性)可能性が示唆されたことが発端でした。 これを受け、世界保健機関(WHO)や各国の食品安全機関が綿密な生体試験(in vivo)と長期毒性試験・発がん性試験を実施。その結果、生体内においてDNA損傷や発がん性は一切認められないことが実証されました。
国際機関(JECFA)による安全性評価と認可状況
食品添加物の安全性を評価する国際的権威であるFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、2008年にステビオール配糖体の包括的な安全性評価を完了し、一日摂取許容量(ADI)を「ステビオール換算で体重1kgあたり0〜4mg/日」と設定しました。 体重60kgの成人であれば、ステビオール換算で1日240mg(ステビオシド製品換算で約600mg)が毎日一生涯摂取し続けても健康に影響が出ない許容量となります。これは砂糖換算で1日約120〜180g分の甘味に相当し、通常の食生活で上限を超えることはまずありません。 現在、ステビアは世界150カ国以上で食品用甘味料として公式に認可されています。
- 日本:1971年に世界に先駆けて抽出精製技術を確立し、安全な既存添加物として半世紀以上の使用実績を誇る。
- 米国(FDA):2008年に高純度ステビオール配糖体を「GRAS(一般に安全と認められる食品)」として認定。
- 欧州(EFSA):2011年に欧州食品安全機関が安全性を承認し、EU全域で使用解禁。
唯一注意すべきリスク:キク科植物アレルギー
科学的に安全性が証明されているステビアですが、体質による注意点がひとつだけ存在します。それは「キク科アレルギー」です。 ステビアはブタクサ、ヨモギ、カモミール、ヒマワリなどと同じキク科の植物です。重度のキク科花粉症や食物アレルギーを持つ人がステビア高配合の製品を口にした場合、極めて稀ではあるものの、交差反応として口内のかゆみ、蕁麻疹、胃腸の不快感などのアレルギー症状を引き起こすリスクがあります。アレルギー体質の自覚がある場合は、少量から試すなどの配慮が推奨されます。