「熱中症を防ぐために塩分タブレットを1時間に何粒も食べる」「スポーツドリンクを原液のまま何本も飲む」といった行動は、実は身体にとって大きな負担となります。日本高血圧学会や救急医療の専門医が指摘するように、過剰な塩分が一気に胃腸に入ると、浸透圧の関係で消化管内に水分が引き寄せられ、激しい下痢や嘔吐、胃痛などの急性消化器症状を引き起こす危険性があります。
脱水状態にある身体が下痢や嘔吐を起こせば、体内の水分と電解質はさらに急速に失われ、熱中症の重症化を決定づけてしまいます。また、腎臓や心臓に基礎疾患を抱える方や高齢者の場合、急激な塩分過多は循環血液量を不自然に増やし、血圧の急上昇や心不全の引き金になりかねません。「塩分は多ければ多いほど安全」という認識は、極めて危険な誤解です。
日本人の平均的な食生活では、1日あたり約10g前後の食塩をすでに摂取しています。オフィスワークや冷房の効いた室内での家事など、じっとり汗をかく程度の日常生活においては、通常の3度の食事で必要な塩分はすでに満たされています。特別な塩分追加が必要になるのは、「作業着やシャツに白い塩が浮くほどの大量発汗」や「1時間を超える激しい運動」を伴う場面に限られるのが医学的な事実です。