言葉の選択は、その人物の教養水準だけでなく、周囲に対する他者視点の有無を克明に映し出します。社会心理学や組織行動論の観点からも、人は言葉の文字通りの意味だけでなく、そこに込められた「心理的立場(主客関係)」を無意識のうちに敏感に感知しています。
「本望」という言葉は、個人の実存的な満足度を宣言する極めて強固な求心力を持っています。だからこそ、組織や対人関係の文脈において誤用すると、意図しない独善性や反発を生んでしまうのです。状況に応じた選定基準を明確に把握しておくことが不可欠です。
【本望を使用するのがふさわしい状況】
・自身の半生を振り返る自叙伝、回顧録、退任メッセージなど私的な語りの場
・数年越しの過酷な挑戦をやり遂げた自己内言語(日記や個人の決意表明)
・同格の戦友や対等なパートナーと、苦楽を共にした末の祝宴における共有
【本望の使用を避けるべき状況】
・上司、役員、顧客からの表彰や労いに対する返答メール・スピーチ
・自己の成果を組織や他人の支援なくして成し遂げたかのように見せたくない公的報告
・「死んでも本望」を軽い相づちや安請け合いとして用いるカジュアルな職場環境