「インドに行って人生観が変わった」「ガンジス川に飛び込んで自分を試した」という言説は、日本の若者や旅行記で定番の文脈として消費されてきました。しかし、現地取材班のヒアリングや渡航外来を担当する医師の臨床データから見えてくるのは、極めて厳しい身体的リスクの現実です。
現地を訪れた日本人旅行者の手記やSNSでのリアルな声を分析すると、沐浴を行った者の多くが以下のような体調異変に見舞われています。
- 急性消化器感染症:「沐浴の翌日、40度近い高熱と激しい下痢・嘔吐で動けなくなった」「水分補給すら受け付けず、デリーの私立病院に緊急入院した」という事例は後を絶ちません。主原因はアメーバ赤痢、細菌性赤痢、腸チフス、A型肝炎などです。
- 皮膚・眼球・耳の感染症:濁った水に含まれる雑菌が傷口や粘膜から侵入し、激しい結膜炎、化膿性中耳炎、重度の皮膚炎を引き起こすケースが多発しています。
- 多剤耐性菌(スーパーバグ)の保菌リスク:近年、医学界で最も警告されているのが、既存の抗生物質が効かない多剤耐性菌(NDM-1など)の保菌です。無症状であっても腸内に定着し、将来別の病気で抗生剤治療を受ける際に深刻なリスクをもたらす危険性が指摘されています。
バラナシのガートでは、現地の人々が頭まで潜って水を口に含み、平然と体を清めている光景が広がっています。これを見て「自分も大丈夫だろう」と錯覚するのは極めて危険です。日常的にその環境で生活し、幼少期から特定の抗体を獲得している現地住民と、清潔な衛生環境で育った日本人とでは、生体防御機能と腸内環境の前提が根本から異なるという医学的事実を忘れてはなりません。