近年、多くのヒット作が魅力的なヴィランを生み出してきた。しかし、メルエムが持つ「悲劇性」と「精神的成長」のダイナミズムに並ぶものは少ない。多くの悪役は、最初から最後まで悪であるか、あるいは過去の同情すべきエピソードによって免罪されるパターンが多いからだ。
メルエムには過去がない。生まれた瞬間から物語が始まり、わずか数十日の命の中で、悪魔から聖者へと急速に変化していった。そのスピード感と、一切の妥協を許さない心理描写こそが、冨樫義博という鬼才にしか描けない領域だったと言える。読者は彼の死を望みながらも、同時に彼の救済を祈るという、矛盾した感情を抱かざるを得なかったのだ。