映画史に残る怪異として圧倒的な存在感を放つカオナシですが、制作初期のプロット段階では主要キャラクターですらありませんでした。ジブリの公式解説や関係者の証言によると、カオナシはもともと千尋とハクが油屋の橋を渡るシーンの背景に描かれていた、名もなき群衆の端役に過ぎなかったのです。
制作当時、尺が3時間を超えそうになった脚本をコンパクトにまとめ直す過程で、宮崎駿監督の脳裏に電撃的なひらめきが走りました。「この橋の上の怪しい影を狂言回しとして使えば、千尋の成長劇が一気に引き締まるのではないか」という着想です。
では、宮崎駿監督の意図におけるジブリ カオナシの正体とは一体何なのでしょうか。監督自身は当時のインタビューや制作手記『折り返し点』周辺の対談において、次のように明言しています。
「カオナシは神でも魔物でもない。誰の心の中にもいる、自分というものを持たない現代人の姿そのものなんです」
ネット上ではしばしば千と千尋の神隠し カオナシのモデルとして、当時スタジオジブリに在籍していたアニメーターの米林宏昌監督の風貌が参考にされたという逸話(鈴木敏夫プロデューサーの発言等)が取り沙汰されます。しかし、それはあくまで外見的な佇まいや立ち姿のスケッチに過ぎません。カオナシの精神的本質は、「強固なアイデンティティを持たず、関わる相手の性質によって善にも悪にも変貌してしまう現代社会の空洞」そのものを具現化したものなのです。