多くの日本人が英語の現在完了形でつまずく決定的な理由は、日本語の助動詞「〜した(た)」が過去と完了の双方を区別なく内包しているという言語構造のズレにあります。
例えば、次の2つの英語の文を見てみましょう。
- A: I lost my smartphone.(過去形)
- B: I have lost my smartphone.(現在完了形)
学校教育の日本語訳では、どちらも「私はスマートフォンをなくした」と訳されるケースがほとんどです。しかし、ネイティブスピーカーがこの2つの文から受け取る情報は決定的に異なります。Aの過去形は「過去に紛失した」という過去の客観的事実を述べているだけで、いま手元にあるかどうかは一切言及していません。すでに新しい端末を買い直している可能性も十分にあります。
一方で、Bの現在完了形を聞いたネイティブは即座に「だから今もスマホがなくて困っているんだな」と解釈します。現在完了形が伝えているのは過去の行為そのものではなく、「その結果として現在どういう状態にあるか」という現在の状況だからです。
学習参考書の執筆を手がける言語教育関係者は「日本語の『〜した』という単一のフィルターで英語の時制と相(アスペクト)を処理しようとする限り、現在完了形の感覚を身体化することは不可能です」と指摘します。過去と現在を切り離すのか、それとも過去を現在へ引き寄せて繋げるのか。この認知の差異こそが、つまずきの根本原因なのです。