40代半ばを過ぎてからの歌舞伎界進出は、伝統芸能の世界において前代未聞の挑戦であった。松竹株式会社の後押しを受け、九代目市川中車を襲名した香川照之の決断は、単なる自身の挑戦にとどまらなかった。その真の目的は、自らの長男である五代目市川團子へと澤瀉屋の血脈と伝統を確かに継承させることにあった。
二代目市川猿翁が築き上げた革新的な歌舞伎の精神を、息子の代で絶やしてはならない。その強い執念が、香川を険しい道へと駆り立てたのである。現在、五代目市川團子は若手歌舞伎俳優として目覚ましい成長を遂げ、大舞台で主要な役どころを次々と演じるまでに至った。伝統の重圧を背負いながらも気品ある姿で観客を魅了する息子の姿に、かつて母・浜木綿子が注いだ情熱と、父・猿翁から受け継いだDNAが確かに受け継がれていることを実感せずにはいられない。