スーパーの惣菜コーナーや鮮魚コーナーに並ぶ蒲焼を見て、「せっかく塗られているタレを水で洗い流すなんて、旨味を捨てるようなものでは?」と躊躇する方は多いはずです。しかし、この直感こそが仕上がりを台無しにする最大の罠となっています。
市販のうなぎ蒲焼に塗られているタレの多くは、長時間の陳列に耐えうる照りやツヤを保持するため、増粘多糖類や水飴、着色料などが添加された高粘度の被膜です。このタレは製造から時間が経つにつれて酸化し、冷え固まったゼラチン質とともに、魚独特の脂の酸化臭や生臭さを閉じ込めてしまっています。これをご飯にのせてそのまま加熱すると、古い油分と人工的な甘みが身全体に再浸透し、くどい口当たりや泥臭さの原因となるのです。
水道のぬるま湯でタレを洗い流すという工程は、身の内部にある旨味を逃す行為ではありません。表面を覆う酸化した油膜と余分な添加物をリセットし、鰻本来の良質なタンパク質と脂質を露わにするための「味覚の初期化(デグレイズ)」です。表面を一度素肌の状態に戻すことで、後から加える料理酒の蒸気が身の奥深くまで浸透し、繊維をふっくらとほぐすことが可能になります。