マライア・キャリーの経歴を振り返る上で、2001年から2002年にかけての時期は最も過酷な転換点でした。主演映画『Glitter』の興行的な伸び悩みや、それに伴うレコード会社(Virgin Records)との巨額契約解除、さらには極度の疲労と情緒不安定による緊急入院など、ゴシップ紙は連日のように「歌姫の凋落」をセンセーショナルに書き立てました。
公の場で見せた表情の翳りや、プライベートを容赦なく暴き立てるパパラッチの攻勢。しかし、彼女は沈黙に逃げ込むのではなく、自らの痛みと感情のすべてをスタジオワークへと注ぎ込みました。そうして完成したアルバムが、2002年12月リリースの『Charmbracelet』です。
アルバム名にある「チャームブレスレット」とは、魔除けや大切な記憶を象徴する小物を繋ぎ止めるブレスレットを指します。自著や当時の特番インタビューにおいて、マライアは「散り散りになりそうだった自分自身の破片を、一つひとつチャームのように繋ぎ合わせて自分を取り戻した」と告白しています。その精神的支柱となったオープニングトラックこそが『Through the Rain』でした。