それでは、粉もんの本場である大阪の人々は「タコなし」についてどう考えているのでしょうか。大阪ミナミや下町のたこ焼き店主、そして日常的に家庭でたこ焼き器を囲む市民へ取材を重ねると、東京や地方の愛好家が抱くイメージとは大きく異なる「大阪流の実利主義(プラグマティズム)」が浮かび上がってきました。
大阪たこ焼き本場のこだわりを象徴する言葉として、多くのベテラン職人が口を揃えるのは「たこ焼きの命はタコやなくて、出汁の効いた生地や」という事実です。本場の名店ほど、昆布や鰹節、鶏ガラなどで丹念にとった濃厚な出汁を小麦粉と合わせ、何もつけずにそのまま食べても旨味が広がる生地作りに心血を注いでいます。中身の具材は、その出汁の旨味を受け止めるためのピースの1つに過ぎないという考え方です。
また、大阪の一般家庭における「たこパ具材定番」の現場を観察すると、驚くほど肩の力が抜けています。冷蔵庫にあるウインナー、ちくわ、天かす、紅生姜、キムチなどを思い思いに投入し、誰もそれを咎めません。取材に応じた大阪市在住の50代主婦は、笑いながらこう話してくれました。
「外で買う専門店のはタコが入ってへんと怒るけど、家で焼くのにタコ限定にしてたらお金もかかるし飽きるやん? 子どもが喜ぶ具をなんでも放り込んで、ワイワイ焼いて美味しかったら全部『たこ焼き』でええねん。」
なお、「タコを入れない場合、名前はどう呼ぶべきか」というたこ焼きタコなし名前問題についても、現場では「丸焼き」「変わり焼き」「〇〇ボール」などと細かく区別する人は少数派です。丸い鉄板で生地を流して丸く焼き上げる一連のエンターテインメントそのものを「たこ焼き」と呼ぶ寛容さこそが、本場大阪のリアルな文化です。