実写キャスト発表時、一部のネット掲示板やSNSでは「橋本環奈では顔が整いすぎていて、原作の泥臭い河了貂の哀愁が出せないのではないか」という懸念の声が散見されました。しかし、作品が封切られるや否や、そうした声は急速に鎮静化していきます。そこには映画のメイキング記録や舞台挨拶などで明かされた、過酷な撮影現場の真実がありました。
中国ロケおよび国内の大規模オープンセットで行われた撮影は、夏場の猛暑と冬場の極寒が入り乱れる極限の環境でした。河了貂の衣装である鳥の蓑は熱がこもりやすく、通気性は皆無。被り物を装着した状態では視界が著しく制限され、足場の悪い岩場や泥濘を全力疾走するだけでも転倒の危険が伴います。
共演の山﨑賢人さんや佐藤信介監督が後年の特番やインタビューで振り返っているように、橋本さんは重たい衣装を身につけたまま泥の中に転がり、顔に土埃がついても一切厭わないプロフェッショナリズムを見せました。「可愛く映ろう」とする作為を完全に捨て去り、全力で逃げ惑い、全力で叫ぶ泥だらけの姿に、製作陣だけでなく観客もまた彼女の本気度を見出したのです。「ビジュアル先行のアイドル起用」という先入観は、彼女自身の泥臭い体当たり演技によって完全に粉砕されました。