店名に冠された「丸十」という屋号には、日本の近代食文化史における重要な足跡が刻まれています。そのルーツは明治時代、アメリカで最新の製パン技術を学び、日本で初めてビールの副産物であるイースト(酵母)を用いた製パン法を確立した田辺玄平翁に遡ります。
田辺翁が興した「丸十製パン」は、家紋である「丸に十の字」を商標とし、門弟たちに技術を惜しみなく伝授して全国へ「のれん分け」を行いました。この系譜こそが、日本の学校給食や大衆食として定着した「元祖コッペパン」の直系にあたります。
三鷹の丸十ベーカリーヒロセもまた、その正統なDNAを色濃く受け継ぐ一軒です。現代の大量生産型ベーカリーで多用される冷凍生地や過度な添加物に頼らず、粉から生地を捏ね上げて適切な発酵時間を取る「ストレート製法」を重んじています。噛みしめるほどに小麦本来の自然な甘みと、イースト発酵特有の芳醇な香りが広がる生地は、まさに100年以上の歴史が育んだ職人技の結晶です。