なぜメーカー各社は、このような回りくどい「有線給電+Bluetooth通信」という仕様を採用するのでしょうか。その背景には、Appleが厳格に管理するMFi認証と100均イヤホンの真相が横たわっています。
MFi(Made for iPhone/iPad)とは、Appleがサードパーティ製アクセサリ向けに定めた互換性・安全基準のライセンスプログラムです。ライトニング端子経由で純粋なデジタル音声信号を取り出すには、Apple公式の認証チップ(DAC内蔵プロセッサ)をコネクタ内部に組み込む必要があります。しかし、この純正チップの調達コストやライセンス認証料だけでも1個あたり数百円規模の費用が発生します。つまり、MFi認証を取得した純粋な有線ライトニングイヤホンを300円〜500円で製品化することは原価構造上、不可能なのです。
中国のサプライチェーンが生み出した苦肉の策が、「電源供給ラインのみライトニングのピンアサインを使い、認証が必要なオーディオ信号ラインをバイパスして、安価な汎用Bluetoothチップで音を飛ばす」という裏技的アーキテクチャでした。これによってAppleへのライセンス料を完全に回避し、500円という驚異的な店頭価格を実現しています。
しかし、この非認証設計には常に「iOSアップデートによる締め出し」というリスクがつきまといます。OSが更新された際、Appleのセキュリティプロトコルによって非認証デバイスへの給電が遮断され、「このアクセサリは使用できない可能性があります」という警告ダイアログが表示されて突然文鎮化するケースは過去に何度も繰り返されてきました。100均のライトニング製品は、あくまで「いつ使えなくなっても惜しくない緊急避難的ガジェット」と認識するのが賢明です。