鋭い顎の造形を芸術の域まで高めた第一人者といえば、間違いなく漫画家・福本伸行である。代表作『賭博黙示録カイジ』において描かれるキャラクターたちの急角度な顎と鼻筋は、人間の極限状態における恐怖や欲望、焦燥感を視覚的に倍増させる効果を発揮している。
絶望に打ちひしがれるカイジや、冷徹な策略を巡らせる利根川らのシャープな輪郭は、見る者の感情を否応なく逆なでし、息をのむような心理戦へと引きずり込む。丸みのない直線的な作画が表現するのは、極限状態における「心の角」そのものだ。緻密な心理描写と突き刺さるような絵柄の融合は、サスペンス漫画における金字塔として今なお異彩を放っている。