十朱久雄の映画人生を語る上で、世界的巨匠・小津安二郎との邂逅を外すわけにはいかない。松竹株式会社を拠点に珠玉の家族劇を紡ぎ出した小津組において、十朱は独特の愛嬌と小市民的なペーソスを担う常連俳優として重用された。
とりわけ小津の遺作となった名作『秋刀魚の味』における彼の演技は、まさに円熟の極みだ。笠智衆や中村伸郎らとともに演じた旧友同士の同窓会シーンや酒場での語らいは、昭和の男たちが抱える照れや哀愁、そしてどこか呑気なユーモアを完璧に体現していた。小津監督の厳格な演出指示のもと、計算し尽くされた視線や沈黙のタイミングを保ちながらも、それを一切感じさせずに飄々と演じ切る技量。松竹のモダンな映像世界に、十朱久雄の存在感は見事に溶け込んでいた。