彼が世界文学に与えた最大の功績は、翻訳という障壁を軽々と飛び越えたことだ。ジェイ・ルービンをはじめとする優れた翻訳者たちとの協働により、日本語特有のニュアンスを残しつつも、英語圏の読者が違和感なく読める独自の文体が確立された。スパゲッティを茹で、ジャズを聴き、井戸の底に降りる。これらの記号は、東京でもニューヨークでもパリでも、まったく同じ手触りで受け入れられた。
この「無国籍性」こそが、彼をグローバルなアイコンに押し上げた原動力だ。しかし同時に、それはノーベル賞が時に重視する「地域的な土着性」とは対極にある。このパラドックスが、彼が常に候補に挙がりながらも、あと一歩で受賞を逃し続けている理由の一つとして囁かれ続けている。