アルパインクライミングの本質は、固定ロープやシェルパの支援を最小限に抑え、自らの体力と知力だけで山に対峙する行為にある。荷物の1グラムが命取りになる領域で、重厚なシネマカメラと交換レンズを背負い込むこと自体、常識から逸脱した試みだった。
パキスタン・カラコルム山脈の難峰シスパーレ東北壁。30日間にわたる悪天候と雪崩の猛威をくぐり抜け、垂直の氷壁を切り拓いた際も、彼のカメラは回り続けた。登攀パートナーである平出和也と共に切り拓いたその前人未到のラインは、登山界のアカデミー賞と称されるピオレドール賞を受賞。審査員たちを唸らせたのは、ルートの困難さだけではない。登攀者自身の息遣いと、絶壁の裂け目に差し込む光を生々しく捉えた映像美だった。