日本国内でヤマカガシの毒性が医学界に激震を与えた契機は、1972年に千葉県で起きた中学生の死亡事故でした。ヘビに噛まれた中学生は、当日の痛みがほとんどなかったことから通常通り登校したものの、翌朝になって突然の激しい頭痛と吐血を起こして倒れ、クモ膜下出血で息を引き取りました。この事例を契機に、長年信じられてきた「ヤマカガシ無毒説」は完全に覆されることになります。
さらに1984年に東京都八王子市で発生した中学生の死亡事例でも、ヘビを捕獲した際に手を噛まれ、受傷から半日以上経過した深夜に激しい頭痛と歯茎からの止血不能を訴えて救急搬送されたものの、広範な脳出血により救命できませんでした。過去に記録された死亡事例には、驚くほど共通した「手遅れに至る行動パターン」が刻まれています。
医療現場のカルテや搬送記録、知恵袋やSNSに投稿される当事者の生々しい回顧録を検証すると、被害者の心理的落とし穴が浮き彫りになります。
「庭の手入れ中に指先を噛まれたが、マムシのような腫れも痛みもなく、血もティッシュで押さえたら止まったように見えた。しかし翌朝、歯を磨いたら洗面台が真っ赤に染まり、全身に打撲のような青あざが無数に出ていて青ざめた」(近畿地方・50代男性の受傷手記より)
このように、「痛くない=軽傷」という誤った直感が受診行動を遅らせ、医療機関側でもヘビの種類が特定されないまま単なる擦り傷として帰宅させてしまう事例が報告されています。ヤマカガシに深く噛まれた場合、受傷から数時間で血中フィブリノーゲン濃度は「測定不能(ゼロ近辺)」まで暴落します。外見上の無症状に惑わされず、ヘビに噛まれた事実そのものを警戒しなければなりません。