鶏ささみは肉類の中でも特に脂質が少なく、水分含有量が約75%と高い部位です。加熱によって筋原線維タンパク質が65度を超えたあたりから急激に収縮し、内部の水分を外へと搾り出してしまう性質を持っています。これが、火を通しすぎたささみがスポンジのようにパサついて硬くなる根本的な理由です。
この物理的弱点を克服するための下処理が、フォークや包丁を活用した下ごしらえと、浸透圧を利用した保水コーティングです。まず調理の第一関門となるささみの筋取りの簡単な方法として、プロの現場でも推奨されているのが「フォークの背とキッチンペーパー」を使った裏技です。筋の先端をペーパーで滑らないようしっかり掴み、フォークの刃の間に筋を挟んで肉側へグッと押し出すだけで、身を崩さずわずか数秒で筋だけを綺麗に取り去ることができます。
筋を取り除いた後は、肉の厚みを均一にする観音開き(中央から左右に包丁を入れて開く処理)を施し、以下の下味の黄金比を揉み込みます。
酒と微量の砂糖を揉み込み、室温で約10分馴染ませるだけで、加熱後も肉汁が逃げないジューシーな土台が完成します。急激な温度変化による肉の収縮を防ぐため、冷え切った冷蔵庫から出した直後に焼かないことも重要な調理の分岐点です。