「雀の涙」という慣用句は、「ごくわずかなもののたとえ」として用いられます。しかし、生物学的に鳥類は涙腺を持ちつつも、人間のように感情を高ぶらせて涙を流すことは基本的にありません。では、なぜ架空ともいえる「スズメの涙」がこれほど強固な表現として定着したのでしょうか。
起源をたどると、江戸時代の狂言や大衆文学、ことわざ集にその原型が見られます。当時からスズメは民家の軒先に巣を作る最も身近な鳥であり、全長わずか14〜15センチメートルほどしかありません。その極小の頭部にある小さな目から出る涙となれば、一滴にすら満たない極微量であることは誰の目にも明らかでした。
一部の説では、古典童話『舌切り雀』に代表されるように、日本人がスズメに対して人間的な感情移入(恩返しをする、悲しんで鳴くなど)を重ねてきた文化的土壌が影響したと考えられています。また、西洋にも「a bird's tear(鳥の涙)」という似た発想の表現が存在しますが、日本では「鳥」全般ではなく、民衆の生活風景に溶け込んでいた「スズメ」を特定して名指しした点に、日本特有の情緒と観察の細やかさが表れています。