結論から申し上げますと、一度皮膚の深層が断裂してできた肉割れを、傷跡が一切なかった「完全な初期状態」へと自力で復元することは現代医学でも困難です。この現実を理解するには、皮膚の3層構造(表皮・真皮・皮下組織)のメカニズムを把握する必要があります。
私たちが日常的に触れている表皮は約0.2ミリの厚さしかなく、約28日周期のターンオーバーで新しい細胞へと入れ替わります。しかし、肉割れ(医学用語では「線状皮膚萎縮症」または「皮膚伸展線」)が発生しているのは、その奥にある真皮層です。真皮層はコラーゲンやエラスチンといった強固な線維組織で構成されており、表皮のような活発な新陳代謝を行いません。
短期間での急激な体型変化や成長期の骨格発達、筋肉量の増加などに皮膚の伸びが追いつかなくなると、柔軟性に乏しい真皮層や皮下組織の線維が耐えきれずに断裂を起こします。表皮は薄く引き伸ばされて透け、下層の断裂部が凹凸や線となって表面に浮き出る現象こそが肉割れの正体です。なお、妊娠線と肉割れの違いについて疑問を持つ方も多いですが、発生する契機が妊娠かそれ以外の要因(成長期・急激な体重増加など)かという区別に過ぎず、皮膚内部で起きている病態生理は全く同一です。
断裂したコラーゲン線維は自然治癒の過程で不規則な瘢痕(傷跡)組織として固定されるため、外側から保湿剤を塗布するだけでは、奥深くで切れた線維を元通りにつなぎ直すことはできません。これが「自力ケアで完全に消すことはできない」と言われる決定的な理由です。