ファンの涙を絞ったのが、夏の西東京大会決勝における敗退と引退の経緯でした。あとアウト一つで甲子園というところまで迫りながら、稲城実業の執念に屈したあの試合。試合終了直後、グラウンドでは毅然とした態度を崩さず、泣き崩れる後輩やチームメイトを支えた主将・結城哲也が、宿舎に戻った後のミーティングで片岡監督の言葉を受けて大粒の涙を流したシーンは、本作屈指の名場面として知られています。
高校野球ファンや読者の間で大きな議論を呼んだのが、「結城哲也の進路選択」でした。高校屈指のスラッガーとしてプロ野球のスカウト陣からも熱視線を送られていた結城でしたが、彼は高卒でのプロ志望届を提出せず、大学進学(作中では「明正大学」、現実の明治大学などをモデルとした東都・東京六大学系の名門)の道を選択します。
この選択の背景には、結城自身の冷静かつ客観的な自己分析がありました。高校野球という枠組みの中でトップを走ってきた自負はあるものの、プロの舞台で一過性の選手で終わるのではなく、木製バットへの完全なアジャスト、フィジカルのさらなるビルドアップ、そしてハイレベルな大学球界の投手陣との対戦を通じて「即戦力として長く活躍できる土台」を築くためのステップだったのです。
続編である『ダイヤのA act2』において、結城哲也は大学野球のユニフォームを着て再登場を果たします。ダイヤのA act2 結城哲也 登場回(原作コミックスやアニメ版の定期的なOB訪問シーン)では、後輩たちの練習試合や夏大会のスタンドに姿を見せ、秋大を制してセンバツ出場を決めた御幸世代に静かなエールを送っていました。大学でも1年春からリーグ戦に出場し、早くも中軸を担うなど、その怪物ぶりはアマチュア最高峰のステージでも遺憾なく発揮されています。