なぜ、生の青梅をそのまま使うよりも一度凍らせた梅のほうがシロップ作りに適しているのか。その答えは、果実内部で生じる物理変化と浸透圧の作用メカニズムにあります。
生の青梅は頑丈な細胞壁と硬い表皮に覆われており、氷砂糖が徐々に溶けて生じる高濃度の糖液にさらされても、内部の果汁が外へ浸透するには長い日数を要します。これに対して、梅をマイナス18度以下の冷凍庫で凍らせると、細胞内の水分が氷の結晶へと膨張し、頑丈な細胞壁を内側から破壊します。この状態で氷砂糖とともに密閉容器に仕込むと、氷が解ける過程で浸透圧が一気に働き、破壊された細胞の隙間から濃厚なクエン酸やリンゴ酸、梅特有の芳香成分を含んだ果汁が外側の糖液へと瞬く間に溶け出していくのです。
一般的な生梅の仕込みでは完成までに2週間から3週間以上を要しますが、冷凍梅を用いた場合、わずか7日〜10日前後で抽出が完了します。梅シロップ作りの失敗原因の約8割は、砂糖が完全に溶けきらないうちに常温環境で空気中の酵母が活性化し、発酵やカビを引き起こすことに起因しています。抽出期間を劇的に短縮することは、そのまま雑菌繁殖のリスクを物理的に遮断することを意味しています。