1988年(昭和63年)に森永製菓から発売された「ぬーぼー」は、日本の菓子市場に大きな革命をもたらしました。当時、チョコレートといえば板チョコやソリッドチョコが主流であり、空気を抱き込ませたエアインチョコという新技術は、それまでにない「口の中ですっと溶ける軽快なエアリー感」を実現した画期的なイノベーションでした。最中種の中にふんわりとしたチョコレートを流し込むという斬新な二重構造は、子どもから大人まで瞬く間に虜にしました。
発売当初は爆発的な売れ行きを記録し、ピーク時には年間で数百億円規模のスナック・駄菓子市場においてトップクラスのシェアを獲得しました。しかし、1990年代半ばを迎えると徐々にその勢いに陰りが見え始め、1996年頃に惜しまれつつ生産・出荷が終了しました。ブームを巻き起こした主役が撤退を余儀なくされた背景には、製菓ビジネス特有の3つの決定的な壁が存在しました。
第1の要因は、エアインチョコ技術の急速な一般化と競合製品の乱立です。発売当初は森永製菓の独壇場だった気泡含有技術ですが、1990年代に入ると他社も追随技術を確立させました。ネスレの「エアロ」をはじめ、気泡を含ませたチョコレート菓子が次々と市場に投入され、ぬーぼーの持っていた唯一無二の希少価値が薄れていきました。
第2の要因は、製造設備の老朽化と特殊な生産ラインの維持コストです。ぬーぼーは、薄く繊細なモナカ皮を焼き上げ、その内部に温度と粘度を厳密に管理したエアインチョコを充填・冷却して密閉するという、極めてデリケートな専用ラインを必要としました。1990年代後半、工場の設備更新期を迎えた際、売上が最盛期から落ち着いていたぬーぼー専用ラインに莫大な改修投資を続けることは、経営判断として極めて困難でした。
第3の要因は、「1個100円前後」という駄菓子価格帯の採算限界です。モナカ皮と特殊チョコレートの二重構造は、単一素材のチョコレートバーに比べて包装コストや歩留まりの管理コストが割高になります。原材料費の高騰や流通マージンの圧迫に対し、子ども向けの定番商品として値上げに踏み切れなかったことが、採算ラインを著しく圧迫したのです。