『夕焼けの歌』が巻き起こした最大の奇跡は、海を越えた香港市場での空前絶後の大ヒットです。1989年、香港の歌姫アニタ・ムイ(梅艷芳)が広東語カバー曲『夕陽之歌』をリリース。この楽曲は、チョウ・ユンファ主演の香港映画の金字塔『男たちの挽歌III アゲイン/明日への誓い(原題:英雄本色III 夕陽之歌)』の主題歌に起用され、香港の年間ヒットチャートで頂点を極めるメガヒットを記録しました。
さらに同時期、同じくトップシンガーであった陳慧嫻(プリシラ・チャン)が、異なる広東語詞(作詞:林振強)で『千千闋歌』としてカバーを発表します。香港の音楽史に残るこの2大ディーヴァによる競作は社会現象となり、ラジオや街頭のあらゆる場所からこのメロディが流れる事態となりました。特に『千千闋歌』は、1997年の香港返還を控えて将来への不安と別れの予感を抱いていた当時の市民感情と深く結びつき、「旅立ちと別れの永遠のアンセム」として人々の心に定着したのです。
香港でのヒットの背景には、近藤真彦とアニタ・ムイが生前に築いていた深い親交や信頼関係というドラマ性もありました。さらに、この旋風は香港だけに留まらず、台湾、シンガポール、マレーシア、さらにはベトナムにまで波及し、それぞれ現地の言葉でカバーされるなど、アジア規模の「共有財産」となったのです。