相撲界の激闘を語る上で欠かせないのが、本名・佐藤貴信という名前に込められた想いと、家族の強力なバックアップです。「貴信」という名は、父・佐藤一法氏が「織田信長のように、確固たる信念を持って自らの道を切り拓いてほしい」との願いを込めて名付けたものでした。
幼少期から極真空手で全国大会準優勝を果たすなど非凡な才能を見せていた貴信少年を、相撲の世界へと導いたのは実父の一法氏でした。兵庫県芦屋市の実家で敢行されたトレーニングは凄まじく、毎日の猛稽古に加え、肉体を巨大化させるための徹底した食トレ(1日4食、牛肉やハンバーグをキロ単位で平らげる生活)を二人三脚で乗り越えました。この父の徹底した英才教育が、のちの怪童・貴景勝の強靭な基礎を築き上げたのは紛れもない事実です。
そしてプロ入り後、精神的・肉体的な支柱となったのが、2020年に結婚を発表した妻の有希奈(ゆきな)夫人です。元モデル・タレントとして活躍し、角界の名大関として鳴らした元大関・北天佑(二十三代湊川親方)の次女という相撲界のサラブレッドでもある有希奈さんは、力士の重圧と健康管理の過酷さを誰よりも理解していました。
大関在位中の過酷なプレッシャーや、相次ぐ怪我で精神的に追い詰められる日々のなか、有希奈夫人は栄養バランスを徹底計算した食事管理と温かい家庭環境を提供し続けました。家庭内には現在、愛児(長男)も誕生しており、土俵を降りれば良き父親としての顔を見せています。引退会見の際、親方が家族への感謝を口にした瞬間は、孤独な土俵に立ち続けた男の心の安らぎがどこにあったのかを如実に示していました。