席に着くと間もなく展開されるのは、緩急の効いた唯一無二のおまかせコースだ。前菜から締めくくりまで、緻密に計算された温度と食感のグラデーションが口内を支配する。とりわけ圧巻なのが、門外不出とされる魚の脱水と熟成のプロセスだ。
ネタごとに塩の打ち方と時間を秒単位で調整し、余分な水分を抜き去りながら旨味のアミノ酸を極限まで引き出す。たとえば、数日間寝かせた白身魚の繊細な舌触りや、独自の煮切り醤油をまとった赤身の深み。ただ鮮度を競うのではない。素材が最も輝く瞬間を見極めて握られる一貫には、職人が長年培ってきた経験と勘が濃縮されている。