かつて「巨人を一匹残らず駆逐する」と叫んでいた少年が、海の向こうに広がる無辜の世界へ牙を剥いた瞬間、多くの読者が強い衝撃を受けました。いわゆるエレンの闇堕ちと形容されるこの変貌は、突発的な狂気ではなく、極限の袋小路の中で導き出された極めて論理的かつ絶望的な選択でした。
作中で明かされたエレンが地鳴らしを起こした理由は、主に3つの不可分な動機から成り立っています。
- パラディ島とエルディア人の物理的生存:全世界からの宣戦布告を受け、通常戦力や通常兵器の近代化でいずれ島が蹂躙される未来を回避するため、圧倒的な抑止力を行使して敵対勢力を壊滅させる必要があった。
- 大切な仲間たちに「長生きしてほしい」という願い:アルミンやミカサをはじめとする同期たちが平穏な余生を送るため、自らが世界の脅威を一手に引き受ける「共通の敵」となる道を選んだ。
- 巨人の呪いの完全消滅:始祖ユミルの未練を解き放ち、2000年続いたエルディア人の巨人化の連鎖を断ち切るには、決定的な結末を用意しなければならなかった。
しかし、これら客観的な大義名分の奥底には、彼個人の根源的なエゴが潜んでいました。それはアルミンの本で見た「誰もいないまっさらな外の世界」を夢見ていたにもかかわらず、壁の外に人類が生きていた現実に対する失望です。エレン・イェーガーにとっての自由の意味とは、何者にも脅かされず、遮るもののない地平を切り拓く衝動そのものであり、彼はその純粋すぎるエゴイズムと運命の板挟みになっていたのです。