ヨーロッパが死刑廃止を単なる政治的スローガンに終わらせず、不可逆な制度として定着させ得た最大の要義は、多角的な国際協定と法的枠組みにある。その頂点に位置するのが国際人権法と欧州人権裁判所である。
ストラスブールに拠点を置く欧州人権裁判所は、加盟国の市民が自国政府による人権侵害を直接訴えることができる超国家的な司法機関だ。各国の国内法がどうあれ、条約に反する拘禁や処刑の危険性がある場合、国際法上の強力な判決によって止めがかかる構造が完備されている。
さらに、欧州連合(EU)への加盟条件として「死刑の完全全廃」が絶対要件(コペンハーゲン基準)に組み込まれたことも決定打となった。経済的・政治的統合のメリットを享受するためには、人権の最高基準を受け入れなければならない。これにアムネスティ・インターナショナルをはじめとする国際NGOの緻密な監視とロビー活動が加わり、死刑制度を復活させることが外交的・経済的に事実上不可能な環境が作り上げられたのである。