好江氏の半生を語る上で欠かせないのは、彼女自身が「成駒屋」という歌舞伎の名門に生まれ育ったという事実だ。父・七代目中村芝翫の背中を見て育ち、楽屋の匂いや独特のしきたりを呼吸するように理解していた少女は、やがて幼馴染でもあった十八代目勘三郎(当時は五代目中村勘九郎)と運命的な結びつきを果たす。
芸に命を懸ける男たちの業や孤独を誰よりも知る彼女の存在は、若き日の勘三郎にとって最大の理解者であり、唯一羽を休められる安全地帯であった。型破りな発想で歌舞伎界に風穴を開けようとする夫の衝動を、彼女は決して否定することなく、常に温かな眼差しで見守り続けた。