正徳3年(1713年)、益軒が満83歳の時に刊行された『養生訓』は、全8巻から構成されています。難解な漢文ではなく、一般の人々にも読みやすい平易な和文体で書かれた点が画期的でした。ここで、現代人に知ってほしい養生訓の要約とわかりやすい解説を整理します。
全編を貫く大原則は、「人の身体は天から授かったものであり、親から受け継いだ大切な器である。みだりに欲望に任せて損なってはならない」という儒教的倫理観と、「病気になってから治療するのではなく、病気にならないよう未然に防ぐ(未病)」という予防医学の思想です。
作品内に散りばめられた数々の言葉は、現代人の胸に深く刺さる養生訓の名言として読み継がれています。その代表的な教えを、親しみやすい現代語訳とともに振り返ってみましょう。
「人の身は父母を本とし、天地を初とす。天地父母の恵をうけて生れ、又やしなはれたる身なれば、わが私有に非ず」
(現代語訳:人間の体は父母を根本とし、天地自然から始まったものである。天地と父母の恩恵を受けて生まれ、育てられた体なのだから、自分一人の勝手にしてよい私有物ではない。)
「道を行ひ、徳をつむことを楽み、病なくして長生きすることを楽むべし」
(現代語訳:正しい道を行い、善行を積むことを楽しみとし、病気にかからず健やかに長生きすることを楽しみにせよ。)
益軒が説いたのは、快楽を完全に否定する禁欲主義ではありません。「健康であること自体が最高の楽しみであり、長く人生を味わうための基盤である」という、前向きで持続可能なライフスタイルの提案でした。