青荷温泉の夕食は、大広間に据えられた囲炉裏を囲んで提供されます。電灯のない広間を照らすのは、等間隔に配置されたランプの炎だけ。薄暗がりの中で影が揺らめき、まるで江戸時代や明治時代の旅籠にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えます。
膳に並ぶのは、豪華絢爛な会席料理や高級ブランド牛ではなく、津軽の山河が育んだ滋味あふれる郷土料理です。囲炉裏の炭火でじっくりと焼き上げられた岩魚(イワナ)の塩焼き、八甲田で採れた山菜の小鉢、津軽名物の鴨鍋や豚しゃぶ、素朴な蕎麦の実雑炊など、身体の芯から温まる品々が静かに運ばれてきます。
「手元が薄暗くて最初は料理がよく見えない」という宿泊記ブログの記述も見られますが、目が慣れてくるにつれ、視覚以外の感覚——料理の立ち上る香り、炭の爆ぜる音、渓流のせせらぎ、素朴な出汁の味わい——が研ぎ澄まされていくことに気づかされます。食事を終えて外に出れば、満天の星空と雪あかり、そしてランプの灯火だけが静かに谷間を照らし出します。