日清亭の歴史は、今から1世紀以上前、大正元年(1912年)に小田原の町で曳かれた一台の中華そば屋台にまで遡ります。文明開化の波が落ち着き、庶民の日常食としてラーメン(当時は支那そば)が定着し始めた時代、初代が夜風の中で提供した一杯がその原点です。
激動の関東大震災や第二次世界大戦を乗り越え、昭和28年(1953年)頃に現在の店舗所在地である小田原市本町の一角に実店舗を構えました。小田原城の南東、かつて城下町の商人が行き交ったお堀端通りから国道1号線へと抜ける要衝です。店内には昭和の面影を色濃く残す木製テーブルやカウンター、長年使い込まれた厨房機器が並び、足を踏み入れるだけでタイムスリップしたかのような錯覚に包まれます。
日清亭が単なる「古い食堂」にとどまらず、世代を超えて敬愛される理由は、一世紀にわたり手作りの製法を頑なに守り続けている職人魂にあります。大量生産の工場製麺に頼るチェーン店とは一線を画し、天候や湿度に合わせて粉を練り、熟成させ、丹念に手打ちする技法は、まさに文化遺産と呼ぶにふさわしいものです。