インターネットの検索窓に寺院名を入力すると、サジェストに浮上する「怖い」「祟り」という不気味なワード。この噂の震源地を調査すると、2つの明確な理由に行き当たります。1つは本尊である荼枳尼天の厳格な性格、もう1つは境内奥にひっそりと佇む「叶稲荷尊天(かのういなりそんてん)」の圧倒的な縁切り力です。
荼枳尼天は、古代インドの密教において人間の死期を予知し、死者の心臓を食したとされる夜叉神「ダーキニー」にルーツを持ちます。後に大日如来の慈悲によって善神・仏教の守護神へと教化された経緯から、「現世利益を叶える力が桁違いに強い反面、願掛けの際に交わした約束を違えたり、成就した後に感謝の念(お礼参り)を怠ったりした者には厳しい試練を与える」という伝承が生まれました。これが俗流化し、ネット上で「一度祈願したら一生通い続けなければ祟られる」という誇大解釈へと変容したのが真相です。
一方、境内の最奥に鎮座する「叶稲荷尊天」は、都内でも知る人ぞ知る「因縁切りの聖地」です。奉納された絵馬を実地観察すると、そこには一般的な神社で見られるような微笑ましい願い事とは一線を画す、人間の生々しい葛藤が刻まれています。
「自分を蝕むアルコール・ギャンブル依存症との決別」「家庭を壊す不倫相手との完全断絶」「理不尽なパワハラ上司の退陣」、さらには現代社会で深刻化する「毒親との共依存関係の解消」など、人生を破滅させかねない悪縁を断ち切る切実な叫びが充満しています。この叶稲荷尊天は「悪縁という腐敗した土壌を完全に断ち切ることで、初めて良縁と開運の花が咲く」という峻烈な教えを体現しており、その妥協なき切れ味の鋭さこそが「豊川稲荷は怖い」と畏怖される最大の源泉なのです。