「日本」という漢字の由来とともに、長年にわたって国民的な議論を呼んできたのが「にほん」と「にっぽん」、一体どちらが正しいのかという問題です。スポーツの国際大会では「ニッポン」コールが巻き起こる一方、日常会話やNHKの放送では「にほん」が多用されるなど、日常生活において混在が続いています。
言語学的な変遷を辿ると、奈良時代以前の古代日本語には「ハ行」の音が存在せず、「パ行(p音)」または「ファ行(F音)」に近い音で発音されていました。そのため、「日本」という文字が使われ始めた当初は「にっぽん(Nippon)」に近い発音であったと推測されています。これが平安時代以降、時代の流れとともに発音が軟音化し、室町時代から江戸時代にかけて「にほん(Nihon)」という読み方が広まっていきました。
この二重性に決着をつけようとした動きは、近代に入って何度も行われました。1934年(昭和9年)、当時の文部省臨時国語調査会は、国号の呼称を「にっぽん」に統一し、外国語表記も「Nippon」とすることを提案しましたが、政府による公式な法制化には至りませんでした。
そして現代における法的な結論が出されたのが、2009年(平成21年)11月の政府答弁書(閣議決定)です。衆議院議員の質問主意書に対し、麻生内閣(当時)は以下の公式見解を示しました。
「『にっぽん』『にほん』という読み方については、いずれも広く用いられており、どちらか一方に統一する必要はないと考えている」
つまり、日本政府の公式な立場としては「にほん」「にっぽん」のどちらも等しく正式な国号の読み方であると結論付けられています。現在、紙幣(日本銀行券)には「NIPPON GINKO」と印刷され、オリンピック等の国際スポーツ組織への選手団名義は「NIPPON」が伝統的に用いられる傾向がありますが、憲法や法令上どちらかを排除する規定は一切存在しません。