ネット上には「初心者はまず弾きやすいクラシックギターから始め、慣れたらアコギに移行すればよい」というアドバイスが散見されますが、これは昭和の教育指導要領的な名残が生んだ誤解です。この俗説には3つの大きな落とし穴が存在します。
第1の落とし穴は、クラシックギターで弾ける曲のジャンルと現代ポップスの乖離です。クラシックギターはその名の通りルネサンス・バロックから近代に至るクラシック独奏曲、哀愁漂うスパニッシュ(フラメンコ)、静謐なジャズやボサノヴァ、映画音楽のフィンガースタイルで無類の美しさを発揮します。しかし、ドラムやベースが鳴り響くバンドサウンドのアンサンブルや、激しいカッティングを伴うロック・フォークのストロークには構造上馴染みません。自分が愛聴している音楽がアコギ主体のサウンドであるなら、初手でクラシックを選ぶのは遠回りでしかありません。
第2の落とし穴は、ヘッド構造と弦交換の煩雑さです。アコギのソリッドヘッド(ペグが横に出ている)はペグポストの穴に弦を通し、ワインダーで巻き取るだけで数分で完了します。対してクラシックギターの多くはスロテッドヘッド(ヘッドに溝が彫られている)を採用しており、ローラーの小穴にナイロン弦を通して特殊な結び目(ノット)を作り、ブリッジ側でも弦を編み込むように結び留める職人的な手作業が求められます。この弦交換の面倒さに挫折し、何年も弦を張りっぱなしにして音を劣化させてしまう初心者が後を絶ちません。
第3の落とし穴は、ピック演奏への不適合です。ナイロン弦を固いプラスチックピックで激しくヒットし続けると、巻き線がほつれたりプレーン弦が削れたりして数日で寿命を迎えます。指弾きのタッチを極める前提で作られた楽器に無理なプレイスタイルを強要することは、楽器の寿命とモチベーションの双方を著しく損ないます。