天理大学柔道部の歩みを語るうえで避けて通れないのが、2013年に明るみに出た暴力問題の経緯です。当時、男子柔道部の寮内において上級生から下級生に対する暴力行為が行われ、鼓膜を負傷するなどの被害が発生。報道各社の取材や全日本柔道連盟(全柔連)の調査によって、日常的な体罰や理不尽なしごきが常態化していた実態が白日の下に晒されました。
この事態を受け、当時の部長および指導陣は辞任に追い込まれ、チームは公式戦の出場自粛という極めて重い処分を受けることになります。当時主将を務めていた大野将平選手も、直接の主導者ではなかったものの、部を束ねる立場としての責任を問われて停学処分および全柔連からの登録停止処分を受けました。後の単独インタビューや自著において大野選手は、「柔道を続ける資格があるのか自問自答し、道場へ足が向かない日々が続いた」と当時の激しい精神的葛藤を率直に吐露しています。
かつて「武道の聖地」と称えられた名門の看板は完全に失墜し、大学関係者やファンの間には絶望感が広がっていました。しかし、この底知れぬ挫折こそが、昭和から引きずってきた悪しき体育会体質と完全に決別するための、避けては通れない契機となったのです。