では、心臓に異常がないにもかかわらず、一体なぜあれほどの激痛が走るのでしょうか。医学界で最も支持されている発生機序は、「壁側胸膜(へきそくきょうまく)の機械的刺激」および「肋骨周辺の筋腱・肋間神経の微小な挟み込み」です。
肺の外側を包む胸膜には2層あり、肺実質を覆う「臓側胸膜」には痛覚神経がほとんどありませんが、肋骨や胸壁の内張りを構成する「壁側胸膜」には鋭敏な知覚神経が密集しています。前屈み姿勢や猫背で胸郭が狭まった状態でいると、肋骨と胸膜の境界部分で組織同士が一時的に擦れ合ったり、神経の先端がわずかに挟まれて緊張状態に陥ります。この状態で息を大きく吸おうとすると、肺が膨らんで壁側胸膜が急激に引き伸ばされ、引っ掛かった神経に強い伸展ストレスがかかって激痛が走るというメカニズムです。
長時間のPC作業やスマートフォンの閲覧による「ストレートネック」や「巻き肩」は、胸郭の可動域を著しく低下させます。胸骨と肋骨をつなぐ肋軟骨周辺の筋肉が過度に緊張・硬直していると、呼吸に伴う滑らかな滑走が妨げられ、前胸部キャッチ症候群の引き金となる物理的摩擦が生じやすくなるのです。