「家では上が118mmHgなのに、健診会場の自動測定器に腕を入れると150mmHgを突破してしまう」——。毎年の健康診断シーズンになると、SNSや医療相談窓口にはこうした切実な声が数多く寄せられます。なぜ普段は問題のない血圧が、白衣を着た医療従事者の前や検査ブースに入った途端に跳ね上がってしまうのでしょうか。その背景には、医学的にも広く知られる白衣高血圧の原因と対策に直結する生体メカニズムが存在します。
人体の血圧をコントロールしているのは自律神経系です。普段のリラックスした状態では副交感神経が優位に働き、血管は適度に拡張して穏やかな血流を保っています。しかし、診察室の独特の消毒液の匂い、医師や看護師の視線、あるいは「もし高い数値が出たら再検査になるのではないか」という予期不安が引き金となり、脳の扁桃体が警戒警報を発令します。これが緊張による血圧上昇のメカニズムの起点です。
警戒態勢に入った脳からは、瞬時に交感神経系へ興奮シグナルが伝達され、副腎髄質からノルアドレナリンやアドレナリンといったストレスホルモン(カテコールアミン)が一気に血中へと放出されます。これにより、心臓の拍動は急激に早まり、末梢血管がギュッと収縮するため、押し出される血液の圧力=血圧が一過性に跳ね上がります。これは太古の昔から人類が外敵に遭遇した際に瞬時に「闘争か逃走か」を選択するために備えられた純粋な生存本能にほかなりません。
臨床データ上、外来を受診する高血圧疑い患者のうち15%から30%がこの白衣高血圧に該当すると報告されています。つまり、3〜4人に1人は病的な血管障害ではなく、心因性のストレス反応によって高数値を叩き出しているのが病院で血圧が高くなる真相なのです。