企業タイアップ、とりわけ地域誘致を目的とした鉄道会社の観光キャンペーンソングにおいて、対象となる都市名や観光名所を歌詞に盛り込むのは長年の定番手法だった。だが、三都物語 JR西日本 CMソングとして1992年に誕生した本作は、その既成概念を根底から覆している。歌詩の中に「京都」も「大阪」も「神戸」も存在しない。この徹底した匿名性こそが、谷村新司 三都物語 誕生秘話における最大のハイライトといえる。
当時の制作陣や音楽関係者の証言によると、企画段階でJR側が求めたのは、単なる名所巡りの案内ではなく「大人の女性が一人、日常の重荷を脱ぎ捨てて心の余白を取り戻す旅」という物語性だった。作詞を手がけた多胡康徳の原案に谷村新司が補作詞として筆を入れ、自ら情緒豊かな旋律を紡ぎ出した。谷村は生前のインタビューにおいて、「具体的な地名を入れてしまうと、その街へ行く人だけの歌になってしまう。旅に出る前の心のざわめきや切なさは、誰の胸の中にもある普遍的なものだからこそ、聴く人が自分自身の物語を重ねられる余白を残したかった」という趣旨の告白を残している。
CM展開においても、賀来千香子や大地真央といった気品あふれる女優陣が起用され、三都物語 キャンペーン 歴代CMは情緒的な映像美で世間を魅了した。三都それぞれの固有の景色を映像で提示しつつ、音楽は旅人の内面をどこまでも深く掘り下げる。この「映像の具体」と「音楽の抽象」という見事な二重構造が、視聴者の旅情を猛烈にかき立てる結果となったのだ。