臨床の現場や患者コミュニティの記録を紐解くと、初期の異変を過小評価して受診を遅らせてしまった生々しい声が溢れている。
都内在住の元高校教諭・佐藤さん(仮名・67歳男性)は、自身が発症した当時の違和感をこう振り返る。
「朝刊を読もうとした際、文字の列が一部だけ不自然に沈み込んで見えたんです。疲れて乱視が出たのだろうと思い、目薬をさしてごまかしていました。ところが半年後、趣味のゴルフでボールの行方が完全に見失うようになり、慌てて大学病院に駆け込んだときには、右目の網膜下で広範囲に出血が起きていました。『なぜ歪みを感じた最初の週に来なかったのか』と主治医に言われた瞬間、頭が真っ白になりました」
インターネット上のQ&AサイトやSNS上でも、「カレンダーの枠線が曲がって見えるが、眼鏡屋に行けば直るか」「片目を閉じると人の顔のパーツだけが消える」といった切迫した相談が日常的に投稿されている。多くの人が「痛みがない」という疾患特性に油断し、眼科ではなく老眼鏡の買い替えに走るという誤った初動を選択してしまう。
現場の眼科専門医はこう警鐘を鳴らす。
「眼痛や充血があれば人はすぐに病院へ行きます。しかし、加齢黄斑変性は痛みを一切伴いません。視界が徐々に、あるいは突発的に壊れていくだけです。脳は失われた視覚情報を周囲の景色から推測して埋め合わせようとするため、本人が事態の深刻さに気付いたときには、新生血管が黄斑の真ん中を貫通しているケースが今なお後を絶ちません」