感情論から離れ、純粋な法律の観点からこの問題を検証してみましょう。結論から言えば、電車内での化粧そのものに対する法律上の違法性は存在しません。現行の鉄道営業法や軽犯罪法を精査しても、車内で身づくろいを行う行為を直接禁止する条項は見当たりません。
しかし、付随して発生する結果次第では明確な法的責任が発生します。車内マナーをめぐるトラブル実態において最も法的な争点となりやすいのが、民法第709条に基づく不法行為責任です。
- 衣服の汚損(民事責任):揺れる車内でアイシャドウの粉やマスカラ液が他人の衣服に付着した場合、過失による財産権の侵害として、クリーニング代や洋服の減価償却費相当額の損害賠償を請求される可能性があります。
- 急停車時の負傷リスク(刑事・民事責任):緊急停車時にビューラーやアイライナー、マスカラのブラシが自身の眼球を傷つける危険性だけでなく、反動で隣席の乗客の顔や目に刺さった場合、過失傷害罪(刑法209条)が成立する余地があります。
- 現場での口論と侮辱・暴行:「やめろ」と注意した乗客が化粧ポーチを払いのければ暴行罪や器物損壊罪、逆に注意された側が相手を激しく罵倒すれば名誉毀損罪や侮辱罪に問われるなど、エスカレートした結果事件化するリスクが存在します。
法律で禁止されていないからといって、あらゆる行為が無条件に許容されるわけではありません。過失責任を問われるリスクと隣り合わせである点は見過ごせません。