大根をわざわざ煙で燻すという世界的にも珍しい加工法は、単なる思いつきや嗜好から生まれたものではありません。そこには、秋田県南部の厳しい気候風土を生き抜くための切実なサバイバル術がありました。
秋田県の内陸山間部(横手盆地や湯沢市周辺)は、日本でも有数の豪雪地帯です。大根の収穫時期である晩秋から初冬にかけては、連日のように冷たい雨や雪が降り続き、日照時間が極端に短くなります。宮崎県や鹿児島県のように、からっと晴れ渡る冬空の下で大根を「天日干し」にすることは物理的に不可能でした。そのまま放置すれば、水分を多く含んだ大根は凍結して細胞が破壊され、腐敗してしまいます。
そこで昔の農家が編み出したのが、囲炉裏(いろり)の活用でした。冬場の暖房兼炊事場であった囲炉裏の天井梁に大根を吊るし、薪の熱気と煙を利用して乾燥を試みたのです。煙に含まれるフェノール類などの成分には強い殺菌・防腐効果があり、熱気によって水分が抜けるだけでなく、雑菌の繁殖を抑えて長期保存が可能になりました。天日干しができないという過酷な自然の制約を、知恵と火の力で克服した結果、偶然にもあのスモーキーで濃厚な旨味が誕生したのです。