医薬品によって体重が増える現象は、単なる「本人の自己管理不足」ではなく、薬理学的な作用によって引き起こされる正当な生体反応です。薬で太る理由を分解すると、大きく分けて3つの生理的ルートが存在します。
第1のルートは、薬の食欲亢進の副作用です。脳内の視床下部にある満腹中枢や摂食中枢に対し、薬剤の成分が直接的・間接的に影響を与えます。特にヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2C受容体を遮断する作用を持つ薬剤を服用すると、脳が「満腹である」というシグナルを受け取りにくくなり、本人の意志とは無関係に強烈な空腹感や糖質への渇望が生じます。
第2のルートは、向精神薬などによる代謝低下と脂肪蓄積の促進です。自律神経系や内分泌系に作用する薬剤の中には、基礎代謝量を低下させたり、インスリン感受性を変化させて血中の糖分を脂肪細胞へと取り込みやすくしたりするものがあります。この場合、摂取カロリーが以前と同じであっても、消費カロリーが減衰しているため体脂肪が蓄積していきます。
第3のルートは、薬の副作用によるむくみと体重増加です。これは脂肪が増えたのではなく、体内に過剰な水分やナトリウムが溜まる「体液貯留」によるものです。短期間(数日から数週間)で2〜3kg以上急増したケースでは、脂肪組織の増加ではなく循環血しょう量や組織間液の増大が主因となっているケースが目立ちます。