インターネット上の健康トレンドや短絡的な言説において、「背脂=体に悪い不純物」「食べたら一発で胃もたれする悪魔の脂」といったステレオタイプが根強く語られがちです。しかし、ラーメン業界の仕込みの現場を取材すると、一般的な認識とは異なる重要な事実が明らかになります。
名店と呼ばれるラーメン店が使用する背脂は、決してスーパーで安価に手に入る端材の脂身ではありません。豚1頭からわずか数キログラムしか取れない、最もキメが細かく臭みのない「A脂(エーあぶら)」と呼ばれる最高級部位を厳選して仕入れています。この上質なA脂を、香味野菜や酒とともに数時間かけてじっくりと下茹でし、酸化した余分な脂や血抜きを徹底的に行うことで、脂特有の嫌な臭みや重さを極限まで削ぎ落としています。
さらに、科学的な視点で見れば、豚の背脂にはオレイン酸をはじめとする一価不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、これはオリーブオイルの主成分と同じ系統の脂肪酸です。粗悪な植物性油を何度も使い回して揚げた揚げ物や、トランス脂肪酸を多く含む加工油脂と比較した場合、鮮度の高い上質な背脂は体内で乳化・消化されやすい性質を持っています。
では、なぜ「背脂ラーメンを食べると胃がもたれる」という現象が起きるのでしょうか。その最大の原因は背脂そのものではなく、背脂の強いコクに負けないように調合された「過剰な塩分濃度」と「化調(グルタミン酸ナトリウム等)」、そしてアルコール摂取後の消化機能低下の重複にあります。背脂がスープの表面に分厚い油膜を作ることでスープの温度が下がらず、熱々のまま塩分を過剰摂取してしまうこと、さらに胃壁を刺激するニンニクの過多投入が胃もたれを引き起こす主犯格なのです。ネットに溢れる「背脂そのものが諸悪の根源」という論調は、調理科学と人体の消化メカニズムを混同した誤解であると断言できます。